都市と農村の関係はいかにあるべきか【話題33】 中道 宏

4-1. 都市と農村が国土経営の展望を共有する

有史以来小さな4 つの島を中心とする国土に<水土の知>が培われ、江戸時代末期には世界第6 位の人口と高度な文明を持つ、人類史上稀有な循環型社会が形成されていた。都市と農村には<心もち>の同じ人びとが住み、太陽を唯一のエネルギーとした物質と生命が都市内・農村内・都市と農村間を循環する社会である。<水土の知>はその後も維持され、開国後も近代化が急がれなければならない国を、また第2 次世界大戦中・敗戦後に窮乏する都市を農村が支えるもととなった。
 しかし高度経済成長と都市と工業の発展はこれまでの国土経営のあり方を大きく変えた。1 つは、都市が独走しこれまでの都市と農村の関係が壊れたことである。2 つは、資源を輸入し廃棄物を国内に蓄積する産業構造に起因する循環型社会の崩壊である。3つは、環境と内なる自然の劣化である。

これを修復することは容易でない。
 この国土経営を支えた前提は今次のように大きく崩れようとしており、国土経営の再構築を一層難しくしているからである。

  • ア.地球の循環機能が劣化し、温暖化が進み、生物多様性が減退している。
  • イ.世界の人口はまだまだ増加する。しかし地球は増加する人口を農地の拡大、水資源の開発の限界から支えきれない、
  • ウ.石油等資源は枯渇する、

という地球の喫緊の課題に対して世界のなかで日本はもっとも脆弱である。
 これに加え、

  • エ.高齢化・少子化がさらに進む、
  • オ.環境の修復と内なる自然を回復する、

という日本固有の課題がある。


「「火と機械」の世紀から「水と生命の世紀」へ」と言われて早10 年が過ぎた。
 人間は、自(おの)ずと然(な)る自然の仕組みのなかで生かされている生きものの一種に過ぎない。生きものは生物多様性国家戦略のパンフレットにあるように、

生命(いのち)は創れない(1995 生物多様性国家戦略)、
いのちはつながっている(2002 新・生物多様性国家戦略、)
いのちは支えあっている(2007 第3 次生物多様性国家戦略、2010 生物多様性国家戦略2010)

のである。このような世界での生産や生活を「農的」と呼んでいる1)


しかし多くの人は、物質と生命の循環を認識できにくい都市に住み、「農的」な感性を喪失している。これは、本来物質と生命が循環する場である開水面と開土面に恵まれ、このしくみを巧みに利用して農業が営まれているはずの農村にも残念ながら共通する。農業は工業化し、生活は都市化しているからである。
 人類が持続的に発展するにも、人生を稔り豊かなものにするにも、この「農的」な感性を回復することが大事である。

これを踏まえ、「持続可能な国土経営の展望を創ろう」と話題32 で提案している。都市と農村を合わせると国土である。都市と農村は国土経営の展望を共有しなければならない。

中道 宏 H21.3.3

*1 (財)水土総合研究所「水土の知を語る」Vol.8

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