循環の視角から地球環境問題に展望を拓く（2）

• 1.農業の始まりと農業の本質
• 2.文明の発祥と環境の破壊
• 3.環境を破壊し、消滅した文明
• 4.環境と調和した文明
• 5.徹底した循環型社会であった江戸時代の日本

• 1.近代化
• 2.地下エネルギー
• 3.人口増加と都市化
• 4.グローバル化
• 5.農業の工業化
• 6.南北問題、貧困問題

■産業革命が最初に起きたイギリスの5つの好条件を各国が整えるには時間差があり、また世界の経済が高度成長するにつれ、農業の工業化により農産物の国際価格が低下したこと、繊維等の農産物が工業製品で代替されたこと、良質の工業製品の輸出攻勢が激しかったこと等により、各国の経済成長に大きな格差を生じ、 2002年の購買力平価による1人当たりGDPに大きな格差がある*1。なお購買力平価による1人当たりGDPの多寡が幸せの指標となるとは限らないが、ここでは議論しないでおく。

■経済成長が停滞ないし衰退した原因として同じくJ.サックスは次の8つ

（1） 貧困の罠
（2） 自然地理学
（3） 財政の罠
（4） 政策の失敗
（5） 文化の壁
（6） 地政学的要因
（7） 新発明の不足
（8） 人口の罠

を挙げているが、1980年以降経済成長した東アジアと停滞ないし衰退したサハラ以南のアフリカを比較し、食糧の生産性を最も重要な要因としている。

■J.サックスは貧困を

（1） 極度の貧困……購買力平価で1人当たり1日の収入が1ドル以下
（2） 中程度の貧困……購買力平価で1人当たり1日の収入が1～2ドル
（3） 相対的貧困……1家の収入がその国の平均より低い

に分け、（1）および（2） についてその数と人口に占める割合を1981年と2001年について比較し次のように述べている。

　（1）極度の貧困は2001年世界で11億人であり、その93％が東アジア、南アジア、サハラ以南のアフリカに集中している。東アジアでは1981年からの 20年間で人口に占める割合が大幅に低下しているが、南アジアでは微減に留まり、サハラ以南のアフリカでは増加している。 （2） 中程度の貧困は2001年世界で16億人であり、その87％が東アジア、南アジア、サハラ以南のアフリカに集中している。東アジア、南アジアで増加しているのは（1）極度の貧困からの向上の結果であろう。

■貧困は、とくに発展途上国において森林破壊と砂漠化を齎していることに留意する必要がある。（1）食糧確保のための農地の拡大と酷使、（2） 家畜の過放牧,（3） 燃料不足のための薪炭材の過剰伐採、（4） 換金作物の作付け、により土壌、森林等に対して負荷がかかり、将来の開発を支え得る、再生可能な資源を損なっている。

■貧困は経済成長が停滞ないし衰退する国に多いが、経済成長が高い国にも貧困がある。
このような格差の大きさは地球環境問題を改善するうえでの障害となることを忘れてはいけない。
　世界の人口を5等分して、世界の富の配分の不均衡を所得配分の格差から推定すると、一番下層の12億人には1.4％の富しかない*2。

■J.ダイアモンドによればアメリカ合衆国、西欧、日本などの先進国の住民の環境侵害量は第三世界のそれの32倍であり、中国の住民全員が先進国並みの生活水準に達すると総環境侵害量は2倍に、第三世界がそうなると12倍になる*3。

■貧困や南北問題をどのように考えたらよいのだろうか。
　アメリカ合衆国や発展途上国に見られる、強固な柵と銃で武装したガードマンに守られた「Gated Community」やG.ハーディンの「救命艇の倫理」で国や地域や家族を守るのだろうか。アメリカ合衆国が依然として不法移民が続いていること、またわが国が蛇頭による不法入国で苦しんだことを忘れてはいけない。
　 地球環境に負荷をより大きく与えてきている「Gated Community」や「救命艇」の人々こそが率先して地球環境問題に対応しなければならないのではないか。